靴とかばんの人生劇場 サヨナラの、その前に。

第2幕 思い出の品を大切にしてみる。

あの日の想いは手離せない

大切な日に履くパンプスは、わたしの“とっておき”。憧れのブランドの一足は、学生時代にアルバイトをしてお金を貯めて買ったものだ。初めて脚を通したうれしさは、今もわたしの胸の内で輝いている。あの日、わたしはちょっぴりオトナになった気がした。自分のお金で、初めてタクシーに一人で乗ったときに感じた、ひとつ階段をあがったあの感覚。洋服や靴は、わたしの気持ちをアゲてくれる。

パンプスと過ごした分だけ、思い出がある。他にも、“とっておき”を手にするまで重ねてきた思い出がある。

カフェでのアルバイトの日々。お客様にコーヒーをサーブしたり、仲間と助け合ったり。当時の匂いまで甦ってくるようだ。そんなパンプスも、履いた分だけ汚れや汗がついている。わたしの気持ちをアゲてくれた思い出の証。簡単には捨てられない。でもきれいとは、言えない。

休日だった。友だちとランチをしているとき、パンプスの話になった。「買い替えも、仕方ないのかなって、思ってる」

サヨナラの、その前に。

「修理すればいいじゃん」

友だちのひと言に、わたしは眉を寄せた。話によると、靴専科ではヒールの踵以外にも、靴を全般的に修理してくれるとのことだった。わたしはさっそく詳しい話を聞きにお店に向かった。

わたしのパンプスは、修理よりもクリーニングが必要、と店員さんが教えてくれた。わたしはパンプスを託した。

約束の日に行くと、くすみや汚れが取れた、きれいになったパンプスがいた。その姿は、初めて出会った日のようだった。

“とっておき”に憧れた、あの日の想いは、生き続ける。

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