靴とかばんの人生劇場 サヨナラの、その前に。

第4幕 プチご褒美を与えてみる。

鞄は二度生きる

20年以上も前の話です。企業ではボーナスの他に特別賞与が支給され、ラーメンが食べたくなったら札幌まで飛んで行った時代。わたしの母は旅行でパリに訪れた際、ハイ・ブランドの本店でレザーのバッグを購入してきました。愛着のあるバッグは母からわたしに、いずれはわたしの娘に受け継がれてゆくものでした。

ハイ・ブランドのバッグに時効はありません。素材のよさはもちろん、デザインも時代をまたいで輝き続ける。母が大切にしてきたバッグを、わたしも丁寧に扱ってきました。ところがバッグにシミができてしまったのです。出かけた際に、カフェでお茶をたのしんでいたときのこと。隣の席の方のドリンクが……。

ショックを受けると同時に打つ手がない、と思いました。バッグで使われているレザーはシミや傷がつきやすいデリケートなもの。買い替えに一縷の望みを託し、今も販売されているモデルかを調べました。結果は予期した通り、廃盤でした。わたしはバッグを大切にしてきた母に謝りました。「いいわよ」とやさしく微笑んだ母に、鼻の奥がつんとしました。そして、バッグを手にしました。

サヨナラの、その前に。

「ママ、バッグが修理できるかもしれない」娘のひと言でした。「靴専科でクリーニングできるよ」。わたしは藁にも縋る気持ちで靴専科に駆け込みました。

仕上がりを見たわたしは娘とハイ・タッチしました。目立っていたシミが見事に抑えられていたのです。修理されたバッグは、新たな命を吹き込まれていました。

二度目の人生を与えてくださった靴専科さんに感謝しつつ、わたしはつなぐ。

三代目を受け継ぐ娘に。

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