靴とかばんの人生劇場 サヨナラの、その前に。

第1幕 継続して使ってみる。

修理プラス1

社内表彰を受けた際、記念で買ったかばん。学生の頃から「いつかは」と思っていたブランド品だ。営業マンであるおれは、このかばんとお得意先に向かう。ゲリラ豪雨の日も、竜巻の日も、ドカ雪の日も、ヒートアイランド現象が起こった日も。外を回れば、汚れもつけば傷みもでる。かばんは全体的にくたびれた印象を受けるまでになっていた。

思い入れのあるかばんだけど、買い替え時期にきている。でも、このかばんは高い。おいそれと買える代物ではない。そんなさなか、彼女の誕生日が近づいてきた。

言葉には出していないが、「その先」もよぎる女性だ。誕生日は盛大に祝ってあげたい。おれの気持ちをカタチに表すと、明らかにリッチになるのだ。自分のかばんに使う費用は、ない。でもかばんはきれいな物を使いたい。買い替えとなると誕生日の予算にシビレがでてくる。

どうする、おれ。打開策はどこにある。頭の中で出口のない問答がグルグルグルグル──やっぱり、新品を買うのだろうなぁ。

サヨナラの、その前に。

天啓が降りてきたのは営業途中だった。以前、靴の踵を修理してもらった靴専科に、ポスターが貼ってあった。かばんも修理できる。これなら買い替えるよりも大幅に予算が抑えられる。かばんを使い続けることもできる。

仕上がりは満足いくものだった。全体的に汚れは落ち、傷んでいたかばんの角のパイピングもきれに修理されていた。

浮いたお金で、誕生日のディナーのコースを1ランク上げてみるか。それとも上等なワインを選ぼうか。はたまたウケ狙いのプレゼントを追加するか。

彼女の笑顔が、もうひとつ増えそうだ。

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