靴とかばんの人生劇場 サヨナラの、その前に。

第4幕 プチご褒美を与えてみる。

信じる証は、努力の証

仕事の延長線上にある資格。取得すると仕事の幅は拡がり、独立開業というキャリア・チェンジも視界に入ってくる。難易度は高い。しかし私にとって大きな意味を持つ資格を、ぜひ勝ち取りたい。

日中は勤務先の仕事に集中する。デスクワークもこなせば、外出先でタフな交渉の場に臨むこともある。夜、業務が終われば自分の時間だ。自宅で机に向かう日もあれば、図書館で勉強する日もある。毎日、深夜まで論理の森を旅した。

試験は、終わった。これまで何度も煮え湯を飲まされてきたが、今回はぶ厚い壁を乗り越えられたと思う。

ひと息ついたとき、自分の足元を見た。靴に傷みが現れていた。

こまめに手入れをしてきたつもりだが、昼夜を問わず慌しい日々が滲み出ていた。ビジネスマンにとって、足元は大切だ。傷んだ靴を履いていては、値打ちが下がる。

今のタイミングはひとつの区切り。私は靴の買い替えを検討し始めた。

サヨナラの、その前に。

4ヶ月後に控えた運命の日を、この靴で迎えられないかと思った。靴の傷みは努力の証、という気がした。試験終了でお役御免にはしたくなかった。

通っていた図書館までの道のりに、靴専科があった。私の靴は革の傷みがある他に、「すべり口」という踵の履き口と、「すべり革」という踵の内側が磨り減っていた。私にとって靴はすでにお守のような存在になっていた。修理以外に、選択肢はない。

指定された日に靴専科に行くと、修理された靴が笑いかけているように見えた。過ごした濃密な時間はそのままに。

合格発表まで残り3ヵ月半。

私はこの靴と、吉報を待つ。

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