大切な日に履くパンプスは、わたしの“とっておき”。憧れのブランドの一足は、学生時代にアルバイトをしてお金を貯めて買ったものだ。初めて脚を通したうれしさは、今もわたしの胸の内で輝いている。あの日、わたしはちょっぴりオトナになった気がした。自分のお金で、初めてタクシーに一人で乗ったときに感じた、ひとつ階段をあがったあの感覚。洋服や靴は、わたしの気持ちをアゲてくれる。
パンプスと過ごした分だけ、思い出がある。他にも、“とっておき”を手にするまで重ねてきた思い出がある。
カフェでのアルバイトの日々。お客様にコーヒーをサーブしたり、仲間と助け合ったり。当時の匂いまで甦ってくるようだ。そんなパンプスも、履いた分だけ汚れや汗がついている。わたしの気持ちをアゲてくれた思い出の証。簡単には捨てられない。でもきれいとは、言えない。
休日だった。友だちとランチをしているとき、パンプスの話になった。「買い替えも、仕方ないのかなって、思ってる」