靴とかばんの人生劇場 サヨナラの、その前に。

第5幕 Only Oneを生かしてみる。

チャラ

くぅ~!頭が、頭痛がぶっちぎっている。飲み過ぎの代償は高くついた。

昨晩、俺は会社の同僚と飲みに行った。足元はダークブラウンに光る革靴。お店のラスト一足を仕留めた、お気に入りの一足と浮かれ気分で出かけていた。今月の営業目標をクリアした週末、ハメを外していた。

仕事やプライベートの話は尽きることなく、時間を忘れて騒いだ。一軒、二軒、三軒……気持ちは盛り上がっていき、記憶は曖昧になっていく。ヘロヘロに酔った俺はタクシーに転がり込み、自宅に着いて気絶するように睡眠を貪った。目覚めとともに襲ってくる強烈な頭痛。二度とお酒は飲まない、などとできもしない決意を胸に、部屋に散らばるスーツやシャツを片付ける。この様子なら靴も脱ぎ捨ててあるに違いない。

玄関に転がっている靴を見て息を呑んだ。細かい傷が無数に付いていた。自慢の靴は悲しげにうちひしがれている。どうやってこれほどまでの傷が付いたのか。思い出せない。俺は後悔した。が、すでに遅い。もはや捨てる以外に選択肢はなかった。でも、一足限りで買った大事なもの。とはいえ履き続けられる状態ではない……。

サヨナラの、その前に。

そういえば昨日、飲み屋で同僚が靴を修理したと言っていた。靴専科。すがり付く。俺は一縷の望みを託し、お店に向かった。店員さんは「どこまで修理できるかわかりませんが、やってみます」と答えてくれた。

仕上がりの日、小さなキセキが起きていた。傷付いていた靴は、飲みに行く前の姿に復活していた。無垢なる願いは、届いた。

これでお酒の失敗は帳消しになったぜ、と、俺はいい気になる。

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