靴とかばんの人生劇場 サヨナラの、その前に。

第4幕 プチご褒美を与えてみる。

輝きのインターバル

重い足取りで部屋に上がろうとして、脱ぎかけの靴に目が留まった。去年のボーナスでちょっと背伸びして買ったその靴は、酷くくたびれていた。

コスメ好きが高じて、化粧品会社で働き始めて3年。営業職として各地の販売店に何度も出向いている。

仕事には慣れてきたけど、体への負担は想像を超えていた。履き心地の良い靴で外回りしていても、家に帰る頃には足が悲鳴をあげてしまう。パンパンになった足をマッサージするのが寝る前の日課になった。

セミの鳴き声が消え、スズムシが秋の訪れを運んできた頃、1週間の休みが取れた。旅行に行きたかったけど、メンテナンスに徹しようと心に決めた。

エステで肌を磨き、整体で疲れきった全身をほぐしてもらった。

クタクタになった靴はどうしよう?

今まで頑張ってきたし、この前のボーナスで新しいのを買いたいなぁ……。

サヨナラの、その前に。

新しい靴を買いに出かける途中、靴専科の前を通って閃いた。買い替えなくても、修理に出せばいいんだ! 美しさってキープできる。肌の調子が崩れたらクリニックにお願いするのと同じ感覚で、靴の修理を依頼した。

指定日に帰ってきた靴を見て、胸が高鳴った。ホント新品みたいになるんだ。ツルツルになった肌。ピカピカになった靴。痛みが取れた足。錆び付いていた時計の針が、再び動き出したような気がした。

休み明けの月曜日。わたしのキブンは、晴れやかにアガっていた。メイクのノリはいいし、髪もふんわりセットできた。リフレッシュした靴に、軽くなった足がするりと滑り込む。新しいわたしが、動き出す。

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