職人Dさん、前回つま先部分を補強されて、その後いかがですか?
D氏はい、その節はありがとうございました! つま先に付けたヴィンテージスチールのおかげで、擦り減りの心配はなくなりました。
職人それは良かったですね! また以前のように愛用してくださいね!
D氏いえ、それがですね……。実はこの靴、最近あまり履いていないんです。買った当初は毎日でも履こうと意気込んでいましたし、かっこよくてオシャレなのも間違いないのですが……。
職人まだ何か、お悩みがありましたか?
D氏足が痛いんですよ。歩いていると、かかとが痛くなってくるんです。最初は我慢して履いていたのですが、痛いと不思議と気分が乗らなくなってくるもので……。別の楽な靴を選ぶようになってきました。
職人そうだったのですね……。この一年間、Dさんの靴と向き合ってきて、見抜けなかった私の責任でもあります。この靴の構造をよく見てみれば、かかとが痛くなるのは当然でした。ここ、インソールの部分を見てください。ヒールを留めている釘の跡がうっすら見えていますよね?
D氏えっ! このでこぼこした跡は、釘ですか!?
職人そうなんです。革靴に釘が使われていること自体は当たり前の話ですが、本来であれば靴のかかと部分には、クッションやスポンジ等の緩衝材が使われているのです。サントーニというメーカーのこの靴型に関しては、必要ないと作り手が思ったのかもしれませんね。靴底の上に直接革が敷かれている状態です。
D氏革一枚を隔てて硬い木や金属の上に足を載せているわけですから、痛くなって当然ですよね。何か対処法はありますか?
職人はい。インソールを丁寧に剥がして、かかとの間に2mmから3mmくらいの低反発インナークッション材を入れさせていただきます。
D氏クッション材を入れることで厚みが出て、甲が当たったりしてまた別のところが痛くなりませんか?
職人クッション材を入れる方法がいくつかあるので、大丈夫です。中にはDさんの心配されているような、靴のサイズが変わってしまうインナーパッド調整という修理方法があります。これは靴のサイズが大きめの方にオススメしています。今回は、かかと部分にしか緩衝材を入れませんので、基本的にはサイズ感が変わることはありません。
D氏それは嬉しいですね、ぜひお願いします。
職人今まで私とDさんは、この靴をどうしたら長く履けるのか、キズからの保護や見た目ばかり求めて、履き心地という一番大事なところを見落としていました。やはり、どんなにオシャレでかっこいい靴でも、履いていて痛かったら敬遠してしまいますよね。
D氏そうなんです。革靴って、頑張って履き続ければ自然と足に馴染んでいく、育てていくもの、みたいな風潮があるじゃないですか。オシャレは我慢と言いますか……。だから言い出せなかったんですよね。革靴とはそういうもので、我慢できないのは自分の努力不足なんじゃないかと思いまして。
職人それは履物として本末転倒ですよ。日常的に自身の全体重を預けるものですから。スニーカーだろうと革靴だろうと、履いていて気持ちいい方が良いに決まっているんです。
D氏仰る通りです。もっと早く伝えられれば良かったです。ただ、買った当初はこのように釘のでこぼこが浮き出してくるようなことはありませんでしたし、一年間履いてみないと見えてこないところだったのかなとも思います。
職人実際にお客様の中には、購入したときは何も問題なかったのに、2回3回と履いているうちに、足に合わない、痛い、と不満を感じる方も多いのが事実です。自然とその靴とは疎遠になり、最後には捨ててしまう……。それって、もったいないですよね。靴に関するお悩みがあるときは、ぜひ靴専科にご相談ください。見た目やサイズ感を変えずに足の痛みを減らす靴のサイズ調整で対応可能ですので、お気軽にお問い合わせください。
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