靴底が急に剥がれてしまった経験はありませんか? 靴底が剥がれる原因は様々ですが、例えば水分によって接着剤が弱まってしまうと剥がれやすくなります。また、風通しが悪い環境で靴を保管していると、接着剤が劣化してしまう場合があります。
もし靴底が剥がれてしまっても、すぐに靴を買い替えるのはちょっと待ってください。靴底を修理することで、お気に入りの靴を再び快適に履くことができるようになります。そこで、剥がれてしまった靴底を交換して、剥がれにくくする修理方法をご紹介いたします。
目次
靴底を修理しても再び剥がれてしまう原因とは?
靴底が部分的に剥がれていても、貼り合わせの強度を出すためには一度靴底をすべて剥がし、古い接着剤を完全に取り除いた方が良いです。必要であれば、下地材を塗って再接着を行います。部分的に接着作業を行うと、古い接着剤が残ってしまい、貼り付いているように見えても再び剥がれてしまう可能性が非常に高いです。
お客様自身で靴底を接着し、剥がれてしまったというご相談も非常に多いです。靴修理用の接着剤以外を使うと取り除くことが難しくなり、再接着できない可能性もあります。靴底が剥がれたら、靴修理店にご相談いただくと確実です。
剥がれた靴底を修理する方法
今回靴修理をご依頼いただいたお客様は、去年履いていたフラットパンプスを下駄箱から取り出したところ、靴底が剥がれていることに気付き、靴専科に持ち込んでいただきました。靴底の剥がれには長年悩まされてきたため、強度を追求した方法をご希望でした。そのため、クリーニングで古い接着剤を取り除き、靴底を「ソール接着」で貼り合わせた後に「ハーフソール縫い」でしっかり固定する方法を採用いたしました。
①状態を確認して靴底を剥がす
修理を始める際、まずは靴底の剥がれた箇所、構造を確認します。今回は靴底をすべて剥がすため、製法や靴底の状態を確認し、手順を考えていきます。靴に釘やネジ、縫いがなく、シンプルなセメンテッド製法(接着のみで作られた靴)のため、靴の形状が変わらないよう剥がれた箇所から慎重に剥がしていきます。その際、かかとのゴムも外しておきます。
②靴本体と靴底の接着剤を取り除く
溶剤を使って接着剤を取り除きます。古い接着剤が残っていると、再び剥がれたり接着不良の原因になるので、重要な工程です。
溶剤によって柔らかくなった接着剤を、モデラーで擦って除去します。靴本体も同様に行い、接着面にマスキングテープを貼っておきます。
③ワイヤーブラシで靴底の接着面を荒らす
靴修理用の機械にワイヤーブラシを取り付けます。回転させた金属製のワイヤーに当てることで古い接着剤を取り除き、接着面を適度に荒らします。荒らすことで接着剤の定着が良くなり、強い接着力を生み出します。
古い接着剤を残さず、接着面をキレイに整えることが大切です。これで下処理が完了しました。
靴の材質が革のため、このまま接着剤を塗ることが可能ですが、材質によっては下地材を塗る工程を加えます。
④靴底に接着剤を塗る
靴本体と靴底に接着剤を塗ります。革は浸透力が強いので、数回に分けて均等に塗り、接着の強度を高めます。その後、しっかり乾燥させます。
⑤靴底を貼り合わせて圧着する
乾燥後、靴底を元の位置に貼り合わせます。様々な角度から靴全体を確認し、曲がったり歪んだりしないよう貼り進めていきます。位置が決まったら台金に靴を入れ、靴底全体を叩いて圧着します。圧着とは、強い力を加えることで接着強度を向上させる手法です。
ご家庭で接着をした場合、大半の失敗は乾燥が十分でないこと、圧着を行っていないことが原因です。
⑥靴底の接着位置を荒らして貼り合わせる
外したかかとのゴムと靴底の接着位置を荒らします。接着剤を塗り、乾燥させて貼り合わせます。
⑦ハーフソール縫いの下準備を行う
接着以上の強度を出すために、「ハーフソール縫い」の下準備を行います。この工程は、ハーフソールをご依頼いただく必要があります。靴底を縫うことで、通常の接着時と比べて飛躍的に強度を高めることができます。デメリットとしては、製法やデザインによっては行えない、履き心地が変わる場合があります。
まずは靴底に線を引き、革包丁を使って溝を掘ります。靴底が薄いため、溝は縫い糸が納まる幅、深さに留めます。様々な注意と繊細さ、熟練の技術が求められるので、靴専科の中でも限られた職人のみが行える工程です。
⑧ミシンを使って靴底を縫う
靴底用のミシンを使って靴底を縫います。元々接着のみで作られた靴でも、靴底を縫うマッケイ製法にすることが可能です。コスト面から取り入れないメーカーも多いですが、縫いを入れることで剥がれにくくなるので、高い強度を求める場合はマッケイ製法もオススメです。
⑨糸を潰して靴底とハーフソールを貼り合わせる
縫い終わったら台金に靴を入れ、糸を上から叩きいて潰します。潰すことで溝に糸が収まり、履き心地も向上します。
糸が潰れたらマスキングテープを貼り、裏面を荒してハーフソールを貼る準備をします。
荒らした面、ハーフソールに接着剤を塗り、乾燥させて貼り合わせます。
⑩ハーフソールの余分な部分をカットして整える
ハーフソールの余分な部分をカットし、削って整えます。靴底の側面に一体感が出るように整えると、ハーフソールがより剥がれにくくなります。削り過ぎてしまうと、靴の形状が崩れてしまうので、細心の注意が必要です。整えた面には元の色に合わせた色を入れ、仕上げます。
ソール接着とハーフソール縫いが完了
ハーフソールを貼ることで固定のための縫い糸は切らずに済み、ハーフソールが擦り減ったら交換することで靴底の消耗も抑えられ、強度を保てます。マッケイ縫いの特徴として、靴の中に縫い糸が露出するので、インソールが無い靴の場合、糸が見えて履き心地も変わってしまいます。そのため、インソールは入れた方が良いでしょう。
ハーフソールは様々な靴に対応していますが、靴底のデザインや仕様によっては難しい場合もありますので、必ず店舗にてご相談いただきますようお願いいたします。
メニュー:ソール接着全体、ハーフソール、マッケイ縫い、クリーニング
※靴に使用されている素材、革色、クリーニング方法により価格が異なります。詳しくは店舗へお問い合わせください。納期目安:クリーニング内容により異なります。詳しくは店舗にお問い合わせください。
靴底を接着・修理する際のポイント
接着剤が劣化して靴底が剥がれた際、単に新しい接着剤を使って貼るだけでは、必ずしも強固に接着させることはできません。接着前にクリーニングをしておくことで、劣化して革に染み込んだ古い接着剤を溶剤で丁寧かつ完全に取り除くことができます。この工程が、新たに塗布する接着剤の効果を高める最大のポイントです。
古い接着剤を完全に取り除くためには、何回も繰り返し拭き取ります。その際、接着面がアッパー側とソール側でキレイに合うように、輪郭部分は拭き取り・バフがけ共に細心の注意を払います。溶剤を使って拭かなければいけませんが、靴底が革だと必要な油分や水分も奪ってしまいます。そこで、靴底の状態を見ながら、必要に応じて最適な栄養分を加えて仕上げます。
また、今回のクリーニングは補色メニュー無しで行っていますが、靴本体の状態、靴底の形状などによってはソールを剥がした状態でアッパーを補色しておくと、細部をよりキレイに仕上げられます。美しさにこだわる方は、補色ありのクリーニングを選んでいただくこともオススメです。
靴底が剥がれないためのメンテナンス
靴底が接着だけされている場合、靴本体と靴底の素材の相性、使用・保管環境などにもよりますが、数年程度で接着剤が劣化して剥がれてしまいます。そうならないためにも、靴底にマッケイ縫いを入れておくことで、久し振りに履いても歩いている途中で靴底全体が急に剥がれてしまう状況は回避できます。
それでも接着剤の劣化を少しでも遅らせるためには、保管環境が重要です。接着剤は水分(湿気)の多い環境に晒され続けると劣化が早まるので、換気や除湿剤などで保管場所の湿度を調整しましょう。
また、今回のケースではソール、マッケイ縫いの保護と滑り止めを兼ねてハーフソールラバーを貼っていますが、ハーフソールラバーは歩き方や使用状況によっては、つま先部分などの縁が剥がれてくることもあります。その場合、靴専科での靴の作業履歴を確認できれば、ハーフソールの部分的な剥がれは何回でも無償で再接着させていただきます。
靴専科では、傷んだり壊れた靴に対して最適なご提案をいたします。例えば革のパーツが傷み、新しい革に交換する場合、元の状態とできるだけ同じような色や質感の革を探して作成するなど、職人のこだわりとお客様のご希望を擦り合わせて仕上げます。靴に関するお悩みがありましたら、ぜひ靴専科にご相談ください。店舗によってはLINEでも承っています。
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