オールソール(靴底全体交換)の手順を熟練の靴職人が徹底解説!

オールソール後の革靴

擦り減ってしまった靴底全体を新しく交換する修理「オールソール」。靴底には様々な素材(革・ラバー・スポンジ)があり、仕上げ方も異なります。また、基本の方法は同じでも靴職人の技術・知識によって仕上がりの表情が変わってくる繊細な修理です。

一般的な靴修理店では工場に送って修理することが多いオールソールですが、靴専科では多くの店舗で対応しています。今回は確かな技術力・応用力・発想力があり、修理経験も豊富な用賀店によるオールソールの手順を解説いたします。

オールソールの下準備

オールソール前の革靴

最近のスニーカーブームで履く機会を逃していた、靴底が傷んだ10年前のスコッチグレイン製プレーントゥ。久々に革靴を履きたい気分になったお客様からオールソールを依頼されました。今回は、トリッカーズなど有名ブランドでも採用されているイタリアのラモンティ社の革底に交換。縫い付けた糸が底面に出ない「クローズチャネル」でエレガントに仕上げていきます。

修理を行う前に、まずは靴の製法や流用するパーツに傷みがないかを確認します。靴底にハーフソールラバーが貼られていたので穴は空いていませんでしたが、つま先が深く削れてしまっています。流用するパーツ(ウェルト)のダメージが心配でしたが、問題なかったため、ヒールの解体から始めます。

オールソールの手順

①加熱して接着剤を緩める

加熱して接着剤を緩める

靴の解体を行う前に全体を加熱して、接着剤を緩めます。緩めることで靴への負担を減らし、スムーズに解体を行えます。

②各パーツを外す

各パーツを外す

靴は、様々なパーツが組み合わさって形成されています。各部分に合った適切な工具を選択し、パーツごとに外していきます。

③靴底の糸を取り除く

靴底の糸を取り除く

糸が残っていると、新しく靴底を縫う際に美しく仕上がりません。そこで、底面が縫われている製法(グッドイヤー製法・マッケイ製法)の場合、糸を1本ずつ取り除きます。底面を削り、糸の断面が二又になった状態で古い靴底を剥がし、ニッパーで糸を丁寧に抜きます。クッション材であるコルクも全て取り除き、交換の準備を進めます。

④コルクを接着させる

コルクを接着させる

コルクを埋め込む部分にテープを貼り、輪郭を写します。輪郭に合わせて新しいコルクを切り、埋め込んで接着させます。歩きやすくするため、コルクに切り込みを入れる工夫がポイントです。

⑤革底を削って成形する

革底を削って成形する

新しい革底の裏を触れる程度に削り、接着の準備をします。削ることで表面がキレイになり、ボンドが付きやすくなる効果があります。その後、削った面を満遍なく濡らし、靴に合わせて成形します。形が整ったら、水分をよく飛ばしてボンドを塗り、乾かします。

⑥接着させて余分な箇所を切り落とす

接着させて余分な箇所を切り落とす

革底と靴を接着させます。余分な箇所は、靴の輪郭に合わせてカッターで切り落とします。

⑦革底を機械で削る

靴底を機械で削る

専用の機械で靴の輪郭部分を削り、仕上げます。ここから革底を縫う作業になりますが、今回は割愛させていただきます。

⑧革底のコバにインクを塗る

靴底のコバにインクを塗る

縫い終わったら、革底のコバ(側面)にインクを塗ります。コバの状態や色、浸透具合を考慮してベストなインクを選択。塗って調整する工程を繰り返し、理想の色・光沢に仕上げます。

⑨仕上げ用のロウで磨く

仕上げ用のロウで磨く

塗り重ねることで、コバの繊維が締まり表面に光沢が現れます。その後、仕上げ用のロウで磨き上げます。

⑩革の表面を剥がす

革の表面を剥がす

革底の着色準備を行います。この段階では色が付いていないので、指定の色を入れて磨き上げる必要があります。そのために、「吟(ギン)」と呼ばれる革の表面をエアぺーパー(膨らんだ形状の紙ヤスリ)で剥がし、手作業で紙ヤスリをかけて整えます。

⑪黒い縁取りを施す

黒い縁取りを施す

用賀店の仕上げの特徴でもある黒い縁取りを施します。元々は別の目的で行っていましたが、靴に合わせて意図的に行うことも多い仕上げ方です。縁取りを施すことで、靴底が締まってスマートな印象になります。革はすぐにシミができるため、一発勝負。集中力が必要な工程です。

⑫着色してロウをかける

着色してロウをかける

吟を剥がした底面に色を入れます。縁取りと同様に一発勝負。大きいスポンジを用意し、たっぷり染み込ませて素早く塗ります。用賀店では独自に研究を重ねて色を配合し、靴に合わせて色を使い分けています。今回は、新品の高級靴に近い色で着色しました。色入れ後は、光沢が出るようにロウを全体にかけて仕上げます。革底用の着色サンプルも用意していますので、お好みの色を選択可能です。

⑬着色剤を乾燥させる

着色剤を乾燥させる

着色材が乾燥して落ち着くと、初めて本当の色が現れます。塗ったときに濃く見える色でも、乾くと違う色になります。この特徴を掴みながら理想に近づけていく繊細な工程です。

⑭ヒールの位置を決めて削る

ヒールの位置を決めて削る

元のヒールに合わせて、新しいヒールを取り付ける位置を決めます。その際、接着する箇所を革包丁で荒らしておくと、ボンドの染み込みが良くなります。ヒールは接着面にすき間を作らず、左右の高さが揃うように調整・確認しながら削ります。

⑮ボンドで張り合わせる

ボンドで張り合わせる

削って加工した面にボンドを塗り、乾燥させます。靴修理に使用されるボンドは、乾燥させることで接着力が強くなり、剥がれにくくなります。革はボンドが染み込みやすいので、2度塗りが基本。2度目の乾燥後、決めた位置からずれないよう慎重に貼り合わせます。最後にハンマーで叩いて、接着力を高めます。

⑯余分なヒールを切り落とし、バランスを調整する

余分なヒールを削除してバランスを調整する

余分なヒールは切り落として、削ります。靴には正しいバランスがあるので、使用するカカト材料の上に乗せて、バランスの確認・調整をします。用賀店では今後の修理を考慮し、ヒールを作成した後にリフトを貼り合わせます。この際に釘を打ち、貼り合わせの補強を行います。

⑰ヒールにカカト材料を貼り合わせる

ヒールにカカト材料を貼り合わせる

ヒールにカカト材料を貼り合わせ、余分な箇所を切り落とします。打ち込んだ釘は、足裏に刺さらないように内側から叩き、先端を潰しておきます。

⑱ヒールを調整する

ヒールを調整する

ヒールの大きさが左右同じになるように仕上げていきます。コバと同様にインク入れ、削りを繰り返し、理想の色・光沢になるように調整します。その後、カカト材料の吟面を剥き、ソールと同様に黒く縁取りを入れ、着色して磨き上げます。

オールソールの修理完了

オールソールの修理完了

着色が落ち着いたら、完成です。新品の革底の光沢に加え、クローズチャネルにより縫い目の無いドレッシーな印象に。縁取りの黒と独自に配合した色が相まって、非常にバランスの良い上品な靴に生まれ変わりました。

オールソールの修理完了

今回は高級感を出すため、修理前に貼られていたハーフソールラバーは貼っていません。しかし、ラモンティ社の革底は他社製品と比べて水に強く滑りにくい点としなやかな履き心地が魅力的。このまま履いていただき、素材の良さを確かめていただきたいです。

また、もう1つの魅力でもある明るい色合いを活かした革の色も美しいです。革靴を履く機会が少なくなった方も多いかもしれませんが、久し振りに革靴を履いて気分を変えてみるのはいかがでしょうか?

オールソール・靴修理は靴専科におまかせ!

ハーフソール

靴底は削れやすく、何もしないと靴が足に合ってきた頃に擦り減り、交換のタイミングになってしまうケースが多いです。靴底を長持ちさせるために、滑り・減り止め効果のあるハーフソールラバーを貼り合わせたり、つま先の削れを抑えるヴィンテージスチールを取り付けるのもオススメです。

靴専科では、多くの方が気にならないような細かい部分、外からは見えない内部に関しても丁寧に靴修理いたします。より実用性のある構造へ変えるために、素材・形状・厚みを変更することも可能です。また、自分好みの1足にするためのカスタマイズも承っています。

オールソールに使用する資材のサンプルも数多くご用意していますので、現物を確かめながらご相談いただけます。長期間履き続けて靴底が擦り減ってしまった靴でも、熟練の靴職人がソールを手作業で手際良く交換。革のキズや色あせなども風合い、色味を変えないよう丁寧に修理いたします。もちろん、革靴だけでなくスニーカーやパンプスにも対応していますので、ぜひお気軽にご依頼ください。

メニュー:オールソール 革(ラモンティ)
オールソールオプション:クローズチャネル
納期目安:約1ヶ月

靴専科 用賀店

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オールソール・靴修理は靴専科におまかせ!

オールソール・靴修理は、豊富なサービス実績と高い技術力を持つ靴専科にお任せください。かかとゴム交換、ヒール、ハーフソール(すべり止め補強)、つま先、インソール、オールソール等、各種靴修理を行っています。いつも愛用している靴を大切に使い続けられるように、最適な靴修理をご提案いたします。

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